カイン―自分の「弱さ」に悩むきみへ (新潮文庫)

by 中島 義道

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かつて自分の「弱さ」に苦しんだ著者が、優しさ、優柔不断、臆病など、自分の「弱さ」に悩む若者たちのために、渾身でつづった生き方の参考書。ナイーブな感受性をもつがゆえに悩む者への、哲学的「開き直り方」マニュアルである。

本書は、悩める青年T君へ向けた著者の手紙という体裁をとる。自殺はするな、人の期待に背け、怒る技術を体得せよ…と各章で、生きていくための厳しい「戦略」を提示する。「優しさ」を無言のうちに強制する「世間」から奪われた「野生」を取り戻す「武装蜂起」のための、反骨のゲリラ戦術教本である。

「ひとに『迷惑をかける』訓練をせよ」の章がおもしろい。繊細すぎる者は多く周りから「いい子」を期待されてきた者だと語り、わざと時間に遅れ、金を返さず、「酒のせい」にしてみなの悪口を言え、と主張する。著者はこうした「小さな迷惑運動」が「いい子」の鎧を壊し、「悪」を実感・体感することが「生きる力」を養うと説く。「迷惑をかけよ」という主張には疑問が残るが、「自覚的に」悪であれ、という論理自体はきわめて倫理的・道徳的である。

著者は「世間」への「なぜ?」という問いと孤独とを背負って生き抜くほかない者を、旧約聖書のカインになぞらえる。そして、どうしたら安全な共同体に戻ることができるか、ではなく、カインとして真摯に生き抜くにはどうしたらいいか、を問いつつ生きよと言う。

「30年前の自身に向けて」本書を書いたと述べる著者は、今やジコチューで攻撃的、全身鋼(はがね)のように傷つかない人間に変貌した。「ぼくは過剰な不幸に…過剰に防衛してしまった結果、過剰に強くなってしまったのである」。悲壮感漂う本書にも、巧まざるユーモアは健在だ。(濱 籟太)

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